京都大学大学院理学研究科・教授 藤原 耕二
高校までに触れる幾何学はいわゆるユークリッド幾何学ですが、この講演では「非ユークリッド幾何学」の一つである双曲幾何について講演しました。数学の研究分野の一つであるリーマン幾何学は19世紀にはじまりましたが、非ユークリッド幾何はその一つであるとも言えます。
そもそも幾何とは英語ではGeometryで、その意味は地面を測るということになります。たとえば、昔の人にとって地球の形は重大な関心事であり、地球が丸いことの実証は1519年のマゼランによる航海であると言われています。
そんな話から、トーラスと呼ばれるドーナツ状(または浮き輪状)の図形について説明し、それが数学者の視点では「平ら」であることを、タイル割を使って説明しました。さらに、二人乗り、三人乗りの浮き輪も考えられることを指摘し、平らな曲面がトーラスだけであるという定理(ガウス・ボンネの定理)を説明しました。
そのあと、ポアンカレ円板モデルを使って双曲平面の話をしました。仮に双曲平面で野球をしたらどうなるか、というような空想の話をして双曲平面の実感を試みました。さらに、版画家エッシャーと数学者コクセターによる、双曲幾何と美術の双方向の影響について話しました。
話を3次元にして、昔の人がどのように宇宙の形を考えていたかを話し、ダンテの考えを説明しました。ダンテの考える宇宙の形は数学者の言葉では3次元の球面になりますが、それを手掛かりに3次元のトーラスを説明し、曲面でのタイル割の考えを敷衍して、3次元の双曲空間にまで話を広げました。
そのうえで、ポアンカレ予想や、より一般的な予想である「サーストンの幾何化予想」と、そのペレルマンによる解決という3次元多様体論における最新の進展について話をしました。そのあと、双曲幾何学の他分野への応用として、情報科学の研究者によるビッグデータの研究への最近の応用について話しました。
最後に、自分自身の研究の紹介も兼ねて、ツリーの幾何学について話しました。ツリーの幾何学と双曲幾何の相関について説明し、曲面のモジュライ空間やタイヒミュラー空間を研究する上で、ツリーの幾何学が有益であることを説明して、講演の締めくくりとしました。
聴衆からいくつかの質問がでました。一つは、ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学の関係、とくに非ユークリッド幾何学を使ってユークリッド幾何学の新しい知見が得られるか、というものでした。また、トーラスがただ一つの平らな曲面であることの、より正確な意味・解釈を知りたいという質問もあり、聴衆の関心や理解度の高さがうかがえました。